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相続コラム

故安倍晋三元首相の国葬儀の法的根拠とは?内閣府設置法4条3項33号は法的根拠たり得るか?

2024-03-07
相談コラム

こんにちは。
日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

今日は、いわゆる「終戦の日」。全国戦没者追悼式が執り行われました。

岸田文雄首相は式辞で、「歴史の教訓を深く胸に刻み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてきた」と述べ、2019年(令和元年)の安倍晋三元首相以来、3年ぶりに先の大戦の「教訓」に言及しました。

さて、「全国戦没者追悼式」ですが、儀式を執り行う明文の法律規定があるわけではありません。これは閣議決定により行われています。また、東日本大震災の追悼式も閣議決定により行われました。これらに一つ一つ、明文の法律規定はあるのか、との議論は聞かれることはありません。だれも開催自体に異論がないからです。

参議院議員選挙の応援演説中に暗殺された安倍元首相について、岸田首相は今秋(9月27日を予定)、国葬を実施する方針を明らかにしました。この国葬(国葬儀)は、内閣総理大臣経験者 の国葬としては1967年(昭和42年)10月31日に行われた吉田茂の国葬以来約55年ぶ りに行われる国葬であり、安倍元首相は第二次世界大戦後では天皇及び皇后を除いて国葬が行わ れる2人目の人物となる予定です。

これに対し、一部野党議員などから、反対論が噴出します。その論拠の一つとして「法的根拠が ない」という指摘があります。ただ、あまり報道されていないのですが、岸田首相は記者会見で、 具体的な法律名をあげて、法的根拠を明らかにしています。

岸田首相は、7月14日の記者会見において、内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として 定められている「国の儀式」として、閣議決定をすれば実施可能との見解を示しました。法的根 拠については、事前に内閣法制局と検討したことも強調しています。

この点、たしかに、内閣府設置法には、所掌事務を定めた4条3項33号に「国の儀式並びに内 閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)」との規 定があります。

「国葬」とは明記されていないのですが、「国の儀式」の一種として行い得るということです。

岸田首相は儀式であることを強調するためか、「国葬儀」という言葉を繰り返し使っていました。

【岸田首相の記者会見(7月14日)での発言】

国葬儀、いわゆる国葬についてですが、これは、費用負担については国の儀式として実施するものであり、その全額が国費による支弁となるものであると考えています。そして、国会の審議等が必要なのかという質問につきましては、国の儀式を内閣が行うことについては、平成13年1月6日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。よって、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております。


所掌事務の法的規定があり、それを踏まえて閣議決定を行うとの説明を、法的観点から全面的に否定することは難しいと思います。ところが、ネット上には反対論の一つとして「法的根拠がない」との指摘が広がっています。

その背景には、大手マスメディアが戦後「国葬令」が廃止された後、「国葬についての法律がない」と繰り返し報道してきたことが指摘できるのではないでしょうか。現に、岸田首相の会見後、法的根拠についてきちんと伝えている記事もありますが(例えば東京新聞)、「国葬に関する法律はない」としか述べず、法的根拠に触れていない記事も少なくありません(例えば毎日新聞社説)。


たしかに、「国葬」と明記された法律が存在しないことは事実です。


しかし、「国葬」と明文で規定した法律があるかどうかと、政府がそうした儀式を実施するための法的根拠があるかどうか(適法かどうか)は、別問題ではないでしょうか。そもそも国葬儀を執り行うのに「法律」が必要なのか(法律の留保の原則における判例実務である「侵害留保説」によった場合、法律による必要はないと思います。)も合わせて議論されるべきであると考えます。

ちなみに、この問題、実は平成12年に内閣府設置法制定の際、議論されている可能性があるのです。

内閣府設置法4条に規定する「国の儀式」とは、憲法7条10号に規定する「儀式」(例:即位の礼など)とその他閣議決定により「国の儀式」と位置付けられた儀式(例:吉田茂元首相の国葬)に分けられます。吉田茂元首相の国葬が後者に該当するという議論がされている可能性があります。

以上のことが、政府作成文書のコンメンタール(逐条解説)にしっかり書かれているからです。


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